12月 09

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Panasonic DMC-GF1 / Tadami / Fukushima / Japan.

 自分を裏切らない旅とは何だろうか?貴重な時間とお金を費やした自分が、旅の後にも己の「旅」を他者に色めき立って語ることを前提とした自分が、「こうありたいと願う自己定義」を損なわない旅とは、一体いかなる形であり得るのだろうか?ベタでもなくウザくもなく、凡庸でもなくこまっしゃくれてもいなく、どう旅すればいいのよ?その定義に翻弄されて、10代の後半から20代を過ごしてきた気がしないでもない。

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 かつて、旅行会社によって組まれたツアーに則ってプログラム通りに旅する人を見下していた。『深夜特急』という沢木耕太郎の小説を、当時から公言するのは恥ずかしかったものの、どことなく良いなぁと感じるところがあったのかもしれないし、あるいはその勢いの延長線上で、バックパッカーに憧れて、”Lonely Planet”だけを片手に街を彷徨する己の姿に親しみを感じたかったのかもしれない。

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 お金をたんまり支払った引き替えに得られる予定調和のスケジュールなどいらない。豪華な食事もいらない。トラブル、よかろうもん。その引き替えに旅先での「本当の触れ合い」が待っている。「まっとうな宿」に高価な代金を支払って、安宿のドミトリーに宿泊すれば1週間は滞在できただろうお金を支払って、おまえは一体何を守りたいのか。おまえの甘えと情けなさと冒険心のなさが、おまえと世界を隔てる障壁になっている、でもおまえは気づいていないだろう、愚かな中年の日本人の群れよ。ツアーの添乗員のくだらない旗に率いられた愚衆の群れよ。いつから人は、矜恃を失ってしまったのだろう。

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Panasonic DMC-GF1 / Aidsu-Wakamatsu / Fukushima / Japan.

 せめて(それでも恥ずかしいことだが)日本で旅をするならば、青春18切符を買え。鈍行列車に乗車して、世界の歩調と己の呼吸をシンクロさせろ。おまえが、若くて地位も名誉もお金もないおまえが、せめてブルジョワに対抗できるとすれば、それくらいしかないだろ?

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 大人から、文化から、立派な一人前としておもてなしされるだけの金銭的資源を持っていない。だから俺こそが裸一貫で世界に乗り込んでいってやるんだ。肌と肌で触れあってやるんだ。知らず知らすのうちに「完成」されてestablishされた大人どもにはわかんないだろ、凡庸なる愚民たちよ。(ネットがこれほどまでに発達する以前の)ナイーブな青少年であれば、そう感じても不思議ではなかっただろう。

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 こういう(ある種素朴な)身構えを支えていたのは、体力だ。もっといえば、定職に就いていないということ。時間的に心理的に余裕があるということ。旅のしんどさで凹まされた何かを精神的にも物理的にも回復させるだけの期待と余裕を持っていたということ。責任を背負っていないということ。

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 何時からだろうか、価値観がちょっとだけ変化した。旅先では、支払うべきの金を支払うべきだ。まっとうにもてなされる資格があるのだし、まっとうにもてなされるべきだ。逆にいえば、気張って安宿とか「本当の触れ合い」とか、馬鹿げている。情けないし、言い訳だし、格好が悪い。

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 現地でしか食べられない美味しいものがあれば高価なお金を支払って食すべきだし、まっとうな対価を支払った者しか得られない対価があるならば、まっとうに支払うべきだ。安旅なんて、何が格好良いの?うわっ、ダサっ。

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 でも、彼は一抹の寂しさを抱えたままだろう(あるいは、僅かな寂しさを抱えたままの彼は特殊なのかもしれない)。箱根の強羅花壇にお忍びで旅行?函館でイルミネーション?伊豆の修善寺あさばに宿泊?いいですねー。いやー、世界いいですねー。わんだほーびゅーてぃほーえぶりばてーじゃーにー♪で?みたいな。

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 そこで、面倒で厄介で傲慢な彼に残された選択肢は一つしかない。お金をたっぷり費やして、プロフェッショナルとしてのおもてなしを為される旅は、それとして楽しめ(高級旅館はたしかに素晴らしいものだ)。でも、それは、自己の定義や冒険心を根底から動揺させるほど旅の本質を成しているわけではない(食べログに消費されるのが関の山だろう、でも恋人や家族の笑顔は嬉しいよね)。だから、適度にリラックスできて、適度に濃厚で、適度に食事も美味しくて、ここでしか得られない旅の経験(それは彼がかつて愛していた一人旅の伝統に裏打ちされたものでなくてはならないだろう、やれやれ)は確かにありディープなのだけれども、でも疲れない!週末の次の月曜日から仕事が始まってもこなすことができる!みたいな場所を彼は必要とするだろう。

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 欲しいのは疲労しない「旅らしさ」なのである。かつて若かりし頃のバックパッカー的野望が低温調理で柔らかく火を通されたような。あたかも、まっとうなフランス料理屋で居心地良く頬を赤らめワイン片手に、でも臭みを抜かれたジビエではなく、獣臭い肉にガブリとかぶりつくことができるように。

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 東京からバスで4時間弱、そこは福島県の会津若松市。朝の8時くらいにバスを拾おう。さすれば、昼の12時には会津若松市に到着する。バス予約業界のAmazonたる高速バスネットで予約して、普通運賃で東京から片道4800円、早割ならば2500円、往復切符(これがオススメ)を買うならば3500円。往復7000円と考えれば悪くはないだろう。

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 会津若松は福島原発から約100km程度離れている。これをどう捉えるかは、読み手の方の判断におまかせしたい。いずれにせよそこは、軽度な雪の世界だ。軽度な雪を踏みしめ、軽度に胃袋を満たし、13:10会津若松発の只見線に乗ろう。会津川口駅まで2時間弱、片道1110円。

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 只見線はいわゆる秘境列車として名高い(らしい)が、寂れた日本の「ふるさと」的里山を走る列車としては抜群なものだろう。いや、掛け値なしに素晴らしいです。

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 晴れの雪景色は色っぽく誘うだろうか?私はそうは思わない。只見線も利口なので当然そこらへんの事情は承知している。里山に奥深く踏み込むにつれて、空は曇る、雪は舞う。青は消え、白が舞う。

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 只見線は受難している(らしい)。只見線は本来新潟の直江津まで抜けているはずなのだが、数年前の災害以来、途中で橋が崩落し、線路が分断されている。しかし、今回の目的地である会津川口までは、走りを全うしてくれる。

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 車窓は純粋なるご褒美だ。会津若松市から2時間、日本酒を片手に、短すぎる時が終わりを迎えるだろう。

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 今回紹介する宿は「鶴亀荘」(食べログ)。宿泊予約さえ入れてあれば、会津川口駅まで車でお迎えに来てくれる。

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 只見線沿線は比較的、宿が受難していると思う。「あ、いいな!」と思わせる、何かしらの尖った要素を持っている宿が少ないのだ。その中で、鶴亀荘は、一押しである。

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 雪は消音壁だ。車の音、川の音、電車の音、もともといない人のざわめき…すべてが雪の柔らい懐に抱かれ、そこはまさに「しんしん」とした世界なのだ。

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 宿泊は土日一律12750円、一泊二食付。

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 薄く濁った内湯も抜群の泉質、掛け流しであるのはもちろん、

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 外湯(露天風呂)は悶絶するしかない。ただただ雪に音を消された圧迫感。その圧迫感に包まれながら、ぬくもる。

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 さらにこの宿の凄いところは、12000円台の安価な宿泊料にもかかわらず、食事が抜群に美味しいこと。日本酒も、女将さんが日本酒ソムリエなので、もう言葉がない。

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 夜の19時か20時頃、一度だけ只見線が通過する様を窓から伺うことができるだろう。それは、酔いにかまけてその目を逸らしさえしなければ、銀河鉄道である。

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 アワビやらウニやらほにゃにゃら牛の陶板焼きやら…そういった高級食材は決して出てこない。ただ単に、地物の野菜の野太い旨味が凄い。そしてそれを引き立てる味付けが、潔い。

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 目を醒ましてもそこは、まったく音のしない雪世界だ。

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 屋根から雪が落ちる衝撃でドスンドスンという音が鳴り響く中、身支度を調える。

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 帰りの只見線を待つ間訪れたそこは、町営の「秘宝館」であった。

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 会津の郷土料理はネギが丸ごと。

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 ここは中間領域なのだ。明日から仕事がある人間にとっても柔らかく「旅」をさせてくれる。十分に力が満ちたと思う、次はもう一歩踏み越えてひさびさに向こうの世界へ行こうか…そんなことを考えるともなく考えながら、東京行きのバスから夜景を眺める。夜の車窓は東京に近づくにつれて美しくなる。愛しい街東京。世界で一番好きかもしれない。荒川がこんなに美しかったとは。
 


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One Response to “鶴亀荘 / 奥会津 (只見線 / 福島)”

  1. ponk Says:

    しびれた
    行きたい

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