3月 25

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iPhone / Sendagi / Tokyo.

 そぞろ歩きでふと行き当たる邸宅が魅力的だったならば…。頬緩みっぱ間違いなしの思いがけぬ至福に出逢った建築を紹介せずにはいられない。旧安田楠雄(やすだくすお)邸。デートプランに行き詰まったマンネリカップルが一通り今っぽいデートを終えた先頭あたりで訪れる場所、谷根千。仕事にすべてを捧げない人間にとってのある種の心の安らぎを提供してくれるかのような幻想を振りまくアジール、谷根千。谷根千とは東京の下町として有名な文京区から台東区一帯の谷中・根津・千駄木周辺地区のことなのだけれども、その谷根千の一角、千駄木に旧安田楠雄邸はある。谷根千を訪れた際ここに寄らない手はない。かつて哲学者の九鬼周造は縦縞が【いき】だと言った(おかしく抜き出した記事)。そう、ここは、近代日本の意気(いき)という精神、そして旧安田楠雄邸という建築に生き甲斐のある部分を賭ける今を生きる人たちの”縦縞の人生模様”が浮かんでくる場所なのだ。ボランティアで案内役をつとめている快活な女性は上の写真の場所を案内しながらこう言った――「そうね、これが日本初のシステムキッチンと言われているものなの!」

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 安田楠雄とはあの安田財閥の創始者安田善次郎(東大の安田講堂の生みの親となった人)の孫にあたる人物なのだけれども、そもそも、旧安田楠雄邸は大正8年(1919年)に遊園地としまえんの創設者である実業家・藤田好三郎により建てられた近代和風住宅であり、関東大震災で家を失った安田家に売却されたものなのだという。安田楠雄氏死去以後にナショナルトラストに寄贈され現在に至るそうだ。大震災も大空襲も無傷で生き延びた90年モノの東京の家は非常に珍しい。手元にある説明書きにはこう綴られている。”旧安田楠雄邸の建物は建築意匠と生活様式の両面で江戸時代以来の伝統的な日本住宅の特色が良く残っており、和洋折衷で数奇屋と書院造りを取り入れた都内に数少ない近代和風建築の代表格です。旧安田邸の庭園は、空間区分や奥行き感を演出する密度の濃い構成を持ち、都市住宅庭園の新たなあり様を示した日本庭園史上に意義を持つ庭園と評されています”(参照)。

 大金を放蕩的にかけた豪邸では決してない。蕎麦の手繰り方に口うるさい旦那衆の眉間のしわに受け継がれてきた< 抑制された節度ある粋な美、という過度に男性的な自意識>によって徹底的に制御された家具、模様、空間構成がそこには広がっている。たとえナルシシズム混じりであろうとも、そこには震災と戦火を生き延びてきた縦縞の美意識がご開陳されているのである。蕎麦を嫌いな人間でなければ、何かしらの感傷に浸れることだろう。小難しいことは抜きにしても、時代モノの波打つ窓ガラス、”日本初の”システムキッチンを堪能すればお腹いっぱいだ。

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 この時期、特筆すべきは、「見事」という形容詞が物足りなく思われるほどの枝垂れ桜だ。これの貫禄はすごい。どの位置から鑑賞できるのか、という< 視点の位置>を考慮に入れれば、ここの枝垂れ桜が都内随一ではないか。2階の【いき】【いき】とした書斎と寝室の窓を開けるとパノラマに広がる…

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 3/27には参加料1,500円にて「枝垂れ桜と琵琶の夕べ」という満面の桜の下で琵琶の語りを味わえるイベントも開かれるという(参照)。当日受付はまだ可能だそうだ。その他、4月10日には年1回の防空壕公開があるという。

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 さて。入邸料500円にしては実に満足できる(水曜日・土曜日10:30~16:00[但し、入館は15時まで])とかそんな野暮な話で〆たいわけではない。旧安田楠雄邸で一番印象的だったのは、実は、ボランティアとして説明してくれたおばさんだったのだ。庭の草むしり、説明員としての役割、修繕の手配、公開手法のプランニング、その他もろもろ…。旧安田楠雄邸を持続可能な建築たらしめているのはボランティアの力によるところが大きいという。彼女は本当に嬉しそうに、満面の笑みで言葉を零していた。「ここに来るたびに新たな発見があるの。この畳、この間取り、このつい立て、どれ一つ取ったって今では考えられないほど手がかけられているし、細部に見入れば見入るほど魅せられるのよ…。それにたとえ真冬の石ころ拾いであろうと真夏の草むしりであろうとみんなと一緒にやっているとなんか楽しいのよ。ねぇ、あなたもお若いのにこんなのに興味持って…一緒にやらない?」

 …ボランティア特有の「臭さ」を発しないボランティアに触れたのはもしかしたらこれがはじめてだったのかもしれない。その衝撃は、たしかな感触としていまもここにある。子供にとってのおもちゃのようなただただ愛すべき対象が目の前にあって、それを愛でることにより自分の生き様がどうしようもなく満ち足りるから引き寄せられてしまい、何かを助けたいだとか何かの役に立ちたいだとか利他意識はほどんど存在せず、ただただ「いいのよ、ほんとに!」というシンプルな興奮で迫ってくる。回りくどいほど冗長に旧安田楠雄邸の畳の柔らかさの魅力について語られて辟易してしまう…しかしその回りくどさがたしかな説得力を持つ【いき】な建築物もそこにある――――旧安田楠雄邸、要チェックです!

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#マイペースながらもblog再開します!


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2 Responses to “旧安田楠雄邸”

  1. コウイチ Says:

    再開うれしいです!更新を楽しみしています!

  2. Gen Says:

    コウイチさん

    どうもありがとう!これからもぜひよろしくお願いしますね:P

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