秋初めに江ノ電沿線を踏破してみた

Ricoh GX100 / Enoshima / Kanagawa.
目新しさも、深い洞察も、血肉沸き踊るような興奮もないお話なのですが、秋が夏を喰いはじめた9月中旬、江ノ電沿線を藤沢~鎌倉まで踏破してみたので、忘却に埋まる前に日記を残しておきます。東京圏の人にとってこれは本当におすすめできる散歩コース!もちろん「散歩コース」と呼べる定番ルートなどなく、江ノ電の線路を軸に据え、右に左に、街をどのようにかき分けて歩をすすめるのかは、あなたと、おそらくあなたと一緒に散歩する誰かさんの感性次第なのでしょうけれども。お金も時間も必要ない、下調べもせず地図も持たず、ただ歩くというそれだけのことで、散歩の醍醐味を満喫できます。いいじゃないですか湘南歩き。「そうだ京都へ行こう」というJR東海のCMにベタに「いいなぁ」と思ってしまうその愚直な気持ちを胸に、線路沿いを歩いてみたとある記録です。いわゆる「江ノ電」というものになんとなく興味がある人にとっては味わい深いと思います。写真中心(枚数多くて重いので注意!)。
江ノ電沿線は線路の距離だけをみれば全長たった10km。しかしもちろん線路上をただひたすら進むわけにもいかないので、実際に歩く距離は10kmよりもずいぶんと増えます。下が地図ですね。左側から右側に、電車でいえば「上り」のルートを辿ってみたのが今回の散歩です。
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江ノ電さんの本家サイトより拝借
新宿から藤沢までは小田急線が一番安く、片道たったの570円。JRの湘南新宿ラインは早いけれども950円かかってしまう。迷わず小田急線をチョイス。そして、牛糞臭い慶応大学に通う人にはおなじみのこの街、藤沢市の江ノ電乗り場にたどり着く。

江ノ電の藤沢駅は2階にあるので、しばらく江ノ電は高架上を走っている

よくある田舎の住宅街の舗装道路を歩いていると、ほどなく線路が地上に降りてくる

14:17 3つ目の駅、柳小路。暑くて単調でそろそろ「萎え」の萌芽がちらほらと
突如、道幅が狭くなる。そして街の毛並みが魅力的に映えはじめる。これがいわゆる「ジェイコブズの4原則」というやつだろうか?おなじみ、「ジェイコブズの4原則」とは、ジェーン・ジェイコブスというアメリカの都市研究者が第二次世界大戦前後の都市開発を調査し、魅力的な都市が備える4条件を見出したもの。それによれば、1.「街路の幅が狭く、曲がっていて、一つ一つのブロックの長さが短いこと」、2.「古い建物と新しい建物が混在すること」、3.「各区域は、二つ以上の機能を果たすこと」、4.「人工密度ができるだけ高いこと」が魅力ある都市の条件だという。難しい話は抜きにしても、街の濃縮感が増し、人々の営みのキメが細かくなるつれ、散歩の足取りが軽くなる。これだけは間違いないようです。

誰もいない古びた魚屋のラジカセから哀しいR&Bが流れてくる。いわゆる「田舎らしさ」とそこで流通している「若者向け」のカルチャーとの併存、それらのギャップが湘南の大きな魅力。

14:37 早く海を見たい一心で江ノ電の線路から離れたところ、川に突き当たる。川の奥にかかっている鉄橋を江ノ電が通過していった。あらら、湘南海岸公園駅を見殺しにしてしまった。

住宅街をぐるぐると迷っていると、小田急江ノ島線の線路に行き当たる。複線の線路はよそよそしい!親密でない!怖い!

14:49 サーブボードが宝石のごとく。でもどの道を進んでも海に突き抜けない。蒸し暑い。イライラと期待がない混ぜの妙なテンションに

住宅街とラブホが違和感なく共存。ラブホの存在が、ラブホを背面から支えているはずの海を連想させる!

ここらへんのラブホの相場。※表示金額は平日メンバー料金になります。

夏の記憶がぽわぽわと蘇る。8月の最盛期に江ノ島を訪れたのだった。そのとき隣にいた人は夏とともに去ったなぁ(夏の写真)

夏の写真(これがいわゆるビーチ・ナンパですね、わかります。)

そしてなによりも、人の幸せを見て「自分も幸せだ」と思える懐の深さを授けてくれる海

海の家はすっかり解体され、鉄骨ひとりで冬を越える。またの夏まで。
★
時刻はもう16:00。長居しすぎたようだ。歩きも、この記事も、巻いていこう。西浜を背に橋を渡り、東浜を通過、国道沿いをまっすぐに鎌倉方面へ向かってゆく。そのうち江ノ電と合流するだろう、なんせ鎌倉高校前の駅は海沿いにあるはずだから!という軽い気持ちで、足取りで。

こういう道をゆく。134号線のサイクリングは本当に気持ちよさそう

16:30 鎌倉高校前駅に到着。改札がないので勝手に侵入。電車が来ても誰もベンチから動かないのは…

クラシック・テイストを狙うことによって逆にクラシックな雰囲気を失ってしまった車両だと思う

これがドラマにもしばしば登場する、いわゆる「鎌倉高校前の踏切」というやつですね。ロマンチック、ではない。

海と反対方向、つまり山側を振り向くと、偉そうに最高の眺望を独り占めしている家を発見!何者だ!

江ノ電沿線はこういう外観の家が多い。軽井沢的な、洗練とは遠く、でも古びているわけでもなく、あえていえばメルヘンな。

家の趣向をイマドキの(安藤忠雄チックな)コンクリート打ちっ放しにした家が存在しないのは、ただ単にまだ世代交代が起こっていないから?(地元の人はこの説を支持していた)。それとも、海が有機的な方角へと人間の心を解き放つのか?

眺望を占有していた家を発見!遠くから見た時にはもっとコルビュジェ風を想像していたけれど、普通の家だった。海風による腐食が相当進んでいる。ここはどうやらマンション?

この眺めを独り占めできるらしい。不思議なことに車の音は一切聞こえてこない。潮騒のみが山肌に輻輳する、複雑なリズムを織り成しながら。嫉妬。

支配的なモードは間違いなく「メルヘン」。ここらへんの地価の相場は「練馬区相当」だとか。

17:02 階段を下り続けることしばし、線路にふたたび合流!

これだけ生活圏に密着した江ノ電のこと、もちろん痛ましい出来事もしばし起こるのでしょう

おじいちゃんも踏切のない場所にて線路を踏み越えなければお家に帰れないわけですから

学園祭終了直後の興奮と猥雑さが七里ヶ浜高校に立ち籠めていたので、内部に少し立ち入ったところ、体育教師風の先生に怒鳴りつけられてしまう。「なんか用かゴルァ!」と。テンションが落ちたのでやおら酒を呷る。それにしてもつくづく、漁村風の田舎臭さと、イマドキのカルチャーとの融合ないしギャップが、江ノ電沿線の魅力。どちらが欠けてもこの雰囲気は醸成されないと思う。

※江ノ電のイメージ画像です(これはすごい。なんと昭和な江ノ電ロマンをそのまま濃縮した光景だよ、という)

疲れてきたので線路の中を直接歩く。映画でいえば”Stand By Me”状態。とはいえ踏切間の距離が極度に短いし、家の軒先に逃れることができるし、なにより江ノ電の速度は異常にゆったりしているので問題はない。

江ノ電が海を離れ完全に内陸部に食い込んできたので、それにあわせてうねうねと道を蛇行する。

次の駅は「極楽寺」という名前のようだ。どんな極楽が待ち受けているんだろう…

鎌倉駅へ近づくにつれて、「メルヘン」は鳴りを潜め、むかしながらの重厚感ある「由緒正しい」趣をもつ家が顔を見せ始める

18:08 極楽寺駅到着。カメラ(GX100)のバッテリーが切れたため、以後は無念ながら携帯カメラで撮影することに。

日がすっかり落ちたので鎌倉を目指し線路の上をてくてく歩く。深酔いした状態だけれども、電車への細心の注意は怠らない。

真っ暗な線路上を歩いていると、突然おしゃれなレストランが浮かび上がる。これにはビックリした。踏切りがまわりに存在しない場所、線路を2分ほど歩いたところにいきなりレストランの入り口があらわれたのだから。これぞ隠れ家レストランと呼ぶにふさわしい!

18:39 由比ヶ浜駅到着。由比ヶ浜の海岸に出たい場合はここから5分ほど歩くそうだ。

線路行脚が続く。ちょっとだけ軒先を借りて江ノ電さんに線路を譲る。迷惑はおかけしません。

駅員さんによると線路の上を歩くことは現在法律的に禁止されているみたいです。説教されました。深く反省。決してマネをしてはいけません。
★
所要時間5時間15分、歩行距離(おそらく)15kmの江ノ電散歩は、このように終わりを迎えたのでした。気がつくと、とてもとても大切なネックレスのトップを無くしていた。まぁいいや、この地に埋まってしまえ、と思えるほど密度の高い散歩を終えた疲労感に酔いしれながら、鎌倉で美味しい魚介類にむしゃぶりついた。海の雄大さと、山沿いの家並みの繊細さ。保養地の伝統が醸し出す古風な趣きと、イマドキのファッショナブルな勢い。これら対極にある要素が、江ノ電というどこまでも親しみやすい軸を中心に据えながら右に左に交差するこの散歩コースは本当にオススメです。ベタだけれども、ベタでいいじゃない。これは歩くだけでなく住みたい街だ、ほんとうに。カメラのストラップを手首に引っ掛け、秋の一日、あなたもぜひ海肌を撫でてみてくださいね。
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