1月 30

R0018738
Ricoh GX100 / Ikebukuro / Tokyo.

 『目からウロコの幸福学』のつづき。この先何回かに分けて、トピックを絞って書こうかな、と。この本は、幸福の科学についての本だ。幸福を心理学の枠内で科学するには、どうすれば良いか?まず、ダニエル・ネトルは、「幸福」という日常的な概念を科学の操作対象として扱うために、3つに分化させる。

★レベル1の幸福:喜びや楽しさ。一過性で、なにか好ましい状態が(しかも予期せずに)得られたときにその気持ちが起きる。たとえば、大好きな人に告白してOKをもらったその時の気持ち。

★レベル2の幸福:「自分は幸せな生活を送っている」という言う場合の幸福。快楽と苦痛のバランスシートを吟味してみたとき、長い目で見て、自分はより好ましい状態にあると感じるときの、生活の満足感。ベンサム・ミルの「最大多数の最大幸福」レベル。たとえば、「あなたの人生は幸せですか?」という問いに対する答え。

★レベル3の幸福:「いかに生きるべきか」というイデオロギー的な幸福のレベル。「これが人間の正しい生き方=本当の幸せなのだ」というレベル。たとえば、実存主義的に生きろとか、神を信仰せよとか。アリストテレスが善良な生活を指して名づけた「エウダイモニア」。個人がその潜在能力を存分に開花させることのできる生活を指す。

 レベル1の幸福は、客観的に測ることができる。「楽しいですか?」という主観的な報告を求め、快感をつかさどる生理的なメカニズムや脳の領域を発見し、その活動をモニタリングすることによって。レベル2の幸福も、客観的に測ることができる。「幸せだと感じていますか?」という主観的な報告を10段階評価で求めることによって。レベル3の幸福は、科学で扱うことができない。良い生活とはどのようなものなのか、判断基準を恣意的に設定する必要があるし、「人生において個人はなにをすべきか」を外から定義すると、イデオロギーになってしまうから。したがって、本書では、レベル1とレベル2の幸福に焦点が絞られている。(科学は「いかに生きるべきか」を教えてはくれません)

 たとえば、ヴィトゲンシュタインやゴッホは、生涯、レベル1やレベル2の意味では不幸だった。つまり、彼らはいつも現状に不満を感じていた。だからこそ、偉業を成し遂げることができた。強い不満は、かえってそれが原動力となって、技術の向上に向けての新たな挑戦を生む。でも、「そのような刺激的な生き方のほうが受け身の娯楽を貪る生活よりも幸せだ」というとき、それはイデオロギーになってしまう。「いかに生きるべきか」という問い(レベル3の幸福)は、科学の範囲外に位置していることを、再度確認しておこう。

■ポジティブな感情とネガティブな感情は非対称的

 まず、レベル1の幸福の話。喜びの感情は、ただ単に「なにか良いことが起きた」ことを告げている。それに適した対処法は、単純に「なにも変えるな」だ。恋人と抱き合っていて幸せなとき、他のことをしようと思わないでしょ?つまり、幸せや喜びは、われわれに益をもたらすような変化を環境の中から感知し、その良いものに神経を集中するべく、ほかの関心事や意図を忘れるようみちびくプログラムだ。だから楽しすぎるとき、ほかのことが手につかない。でも喜びの感情は、持続力に乏しく、喜びをもたらしたものが存在しつづけていたとしても、徐々に衰えていく。もし喜びのプログラムが、ほかの問題を忘れてなにか良いことに意識を集中させるためのものであるなら、しばらくたったら終了する機能があらかじめそなわっていなければ、きわめて不都合だから。遅かれ早かれ空腹や疲労を感じるだろうし、敵を避けねばならないから。

 他方、ネガティブ感情はとてもしつこく残る。「慣れ」の作用は、ネガティブ感情にも起こりうるが、ポジティブ感情にくらべれば、さほど早くもなければ完全でもない。なぜなら、危険が取り除かれるまで、個体は警戒を解くわけにいかないから。喜びは比較的早く消えてしまう。でも、悲しみはあとまで尾をひく。喜びと悲しみは非対称なのだ。

 また、ポジティブ感情はどれも似たようなものだが、ネガティブ感情はいずれもそれぞれにネガティブなもの。つまり、ネガティブ感情は、原因も好ましい解決方法もそれぞれちがい、別々のスキーマで示される。ネガティブな感情はそれぞれ、固有の状況タイプ(スキーマ)によって引き起こされ、それぞれに、そのスキーマを取り除くための個別の対処法が存在する。ポジティブな感情はシンプル。でもネガティブな感情は複雑なのだ。

 ずっとレベル1の喜びに満ちあふれていると、大変疲れてしまう。人生にとって大切なのは、つねに歓喜を感じていることではなく、むしろ、全般的に見てほぼ満足という意味での幸せを感じること。だから、心理学調査はレベル2の幸福、いわゆる「生活の満足度」にこれまでフォーカスしてきた。これは、「総合的に考えて、あなたは自分の生活に、どの程度満足していますか?」といった質問に答えることで、引き出せる感覚。これについては、次回のお楽しみです。面白い本でしょ?
 

目からウロコの幸福学
目からウロコの幸福学
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ダニエル・ネトル 山岡 万里子
オープンナレッジ (2007/03/28)
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