1月 23

Propagation.
Ricoh GR Digital / Naoshima / Kagawa.

 『目からウロコの幸福学』。これは買いです。俗っぽいタイトルとは裏腹に、素晴らしい本。圧倒された。「なにか心理学系でおすすめの本ない?」と聞かれれば、まず間違いなくこの本を薦めるだろう。某進化系Blogで2007年1位と推薦されていたから買ってみたけど、本当に目からウロコがぼろぼろ零れた。実証心理学の醍醐味がぎっしりで、自信をもってオススメできる。そこら辺の新書とは格が違う。なぜそれほど売れていないのか理解できない。編集者と訳者が可哀想。1.学術的に妥当、2.そのくせ読みやすい(訳も的確)、3.内容の密度が濃い、4.説教臭いところが一切ない。この本を読んでつまらなければ、俺が弁償します!ほんとに。学生、社会人、研究者、誰が読んでも感じるところがあるはず。(言語学や心理学に携わっていない)一般の人にとっては、あのスティーブン・ピンカーの本より刺激的(記述の感じは似ている)。

 著者のダニエル・ネトルはイギリスのニューキャッスル大学の心理学助教授。日本語に翻訳されたものとしてはこの本のほかに『消えゆく言語たち』があるけれども、現在は感情、性格、精神障害、性差を研究しているという。この本は、「人間が幸福を感じる心理的メカニズムはどのようなものなのか?」を、進化心理学をベースとして科学的に探ったもの。つまり、この前の『愛するということ』みたいな「いかに生きるべきか?」という倫理的な問いをひとまず封印して、「いかなるときに人は幸せを感じるのか?」をひたすら科学的(統計的・実験的)に考察した本。やばいよこれ。これこそ本物の「幸福の科学」だわな。科学の醍醐味も、(結果的に)いかに生きるべきかという人生論のヒントも、ぎっしり詰まっている。

 本書の「目からウロコ」な部分を要約すれば、次の3点に尽きると思う。

 1.「人は幸せになるために生きているのだ」という常識を、「人は生きるために幸せを求めるのだ」にひっくり返した点。つまり、「もっと幸せになりたい!」と思うから人々は努力するのだけれども、実際には長期的に持続する「幸せ」という感覚が手に入ることなどなく、あくまでわたしたちは「もっともっと幸せになりたい!」という気持ちをもとに、前へ前へ努力し続けるよう進化的にし向けられているだけだ、という点を的確に指摘したこと。すなわち、「完璧な幸せ」「ユートピア」という「幸せ」の終着点など存在しなく、どこまでも「もっと」を求めて格闘し続けるようにプログラムされている、と実証したこと。(絶対に「終わりなき旅」であるということ)

 2.わたしたちはおなじ環境下に生きる他者と比較して自分が「幸せ」かどうかを判断する存在だ、という点を的確に検証したこと。たとえば、彼女も嫁もいない独身男性とくらべれば、一人の妻を持っている男性は幸せを感じるかもしれない。だが、もし彼が一夫多妻制の社会に生きていれば、屈辱感を味わうかもしれない。身長だって、平均身長(170cm)と比較して、「あぁ生まれ変わりたい」とか絶望するわけだ。つまり、本質的に「幸福」という概念は、他者との競争プロセスに関連している相対的な概念だ、という点を示したこと。

 3.「欲望」システム(あれが欲しい、あれをしたい、こういう自分になりたい)と、「快感」システム(実際に欲していたものを手に入れて幸せを感じるかどうか)が異なることを的確に指摘した点。わたしたちは「弁護士の資格を取れば幸せになれる」「あの企業に入社できれば幸せになれる」「ハーバードでMBAを取れば(ry」というように、欲望を実現すれば幸福が訪れると考えていてそのために努力するけれども、実際には、それら(欲望と幸福の実現)がかならずしも一致しないと示したこと。また、欲望システムと快感システムは、脳科学的にも別の基盤を持っていることを示した点。実際には昇進したり大金を手にしてもそれほど幸せになれるわけではないけれど、でもわたしたちは「頑張らなきゃ」とつねに感じてしまうのはなぜか?を丁寧に検証した点。

 つまり本書は、「幸せ」という概念にまとわりついている日常的な常識を、統計的・実験的な科学のデータによって綺麗さっぱり洗い流して、「頑張っても人は結局幸せになれないよ?そのことは科学的に明らかなのだから、きちっと受け入れよう。受け入れた方が、呼吸が楽になる。でも、幸せになれないとわかっていても、頑張ることには意義があるかもね」という見取り図を示してくれる。しかも、科学的にもっとも「幸福」を感じやすい生き方は、岡本太郎が語っていた人生論に実は近似しているという事実も浮かび上がってくる。これは本当にラディカルな本だ。

 かつて1776年にトマス・ジェファーソンがアメリカの独立宣言を行ったとき、彼は「すべての人間は平等に創られ、けっして奪われてはならない権利をその創造主から与えられた。それは生命の権利、自由の権利、そして幸福を追求する権利である」と述べたけれども、その「幸福を追求する権利」が、「幸福を実際に手に入れる権利」ではなく、あくまで「幸福を追求する」権利であったことを想い出させてくれるのだ。心底面白いので、今後このBlogで、同書からいくつかトピックを絞ってエントリーを立ち上げようと思います。超おすすめ!

目からウロコの幸福学
目からウロコの幸福学
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ダニエル・ネトル 山岡 万里子
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