12月 30

R0018690
Ricoh GX100 / Ikebukuro / Tokyo.

 Economist誌の“The World in 2008″という世界の2008年の動向を予測した特集の出来が素晴らしいので、年末の締め&新年の挨拶代わりに、数回に分けて紹介してみようかと(本当は岡本太郎の実存主義的人生論を批評したかったんですがw)。今回はLEADERS(一面)の7記事すべてをダイジェスト。全訳は疲労コンパイルしてしまうので、要旨を中心にメモ抜き書き。英語の体力がある方はぜひ原文をお正月に読んでみてくださいな。太字強調部分は、訳者が大事だなぁと感じたところ。

 主に政治経済の話です。上から順に、アメリカの2008年を占った記事、アメリカとイランの緊張関係を論じた記事、宗教のグローバリゼーションについて論じた記事、北京オリンピックが顕在化させる問題を論じた記事、2008年の世界経済を概観した記事、Facebookは古くさいと喝破するSNSについての記事、地球温暖化問題解決に向けての2008年の課題を整理した記事。


One more year(アメリカ全般)

 ブッシュは、2008年丸ごとと、2009年の冒頭20日の間、大統領の職に就いたままだ。議会の主導権を民主党が握っているので、内政問題の進歩はおそらく見られない。他方、外交問題に関しては、大統領個人の裁量が働きうる余地が大きいので、進歩する可能性は比較的残されているといえる。だが、ブッシュは弱体化しており解決すべき問題は困難を極めているので、外交分野での進歩も難しいだろう。

 もちろん、まったくちがった形になる可能性はあったのだ。歴史的には、分裂した政府が力強い結果を生み出す例が数多く存在した。なぜなら、政治的なリスクを両党(共和党と民主党)が等しくシェアすることによって、はじめて大胆な改革を成し遂げることができるからだ。

 2008年、両党が協力しうるひとつの分野は、地球温暖化問題に関するものだ。しかし、早急な改革が必要な内政問題――移民問題、医療保障問題、 社会保障問題――については新政権の誕生を待つしかないだろう。

 アメリカの外交政策はもっと面白いものになる可能性を秘めていた。ブッシュとライスはヨーロッパ大陸やアジア諸国との関係を再構築しようと努力してきたし、2008年もそうするだろう。フランスの大統領がサルコジになったことは、アメリカとヨーロッパの関係改善に大きく貢献した。ヨーロッパの外交官は、2008年も、アメリカを国連のような多元的枠組みに徐々に引き入れていこうと努力し続けるだろう。北朝鮮の核開発問題も、アメリカとアジアの蜜月関係をもたらす可能性を秘めていた。

 しかし、外交分野で突出しているのはイラクとイランの問題だ。ブッシュは、任期中、大量の軍隊をイラクに駐留させ続けると明言している。民主党は今年の夏にイラク戦争を終結させようと激しく試みたが失敗した。来年はそれほど情熱的にイラク撤兵を主張しないだろう。これらが意味するのは、ブッシュの後継者はそれが誰であれ、まず最大の難問としてイラク問題に直面せざるを得ないということだ。しかし、ブッシュ政権最後の年の鍵を握っているのは、イランだ。ブッシュ政権はこれまでイランを多元的外交枠組みに引き入れようと努力し続けてきたが、成果を生まなかった。だから、アメリカが2008年にイランに対する単独の軍事行動を取る可能性は十分にあり、もしそうなった場合、アメリカと同盟国との関係はふたたび大きく後退してしまうだろう。

 でも、なんといっても大統領選挙が最大の焦点だ。予備選挙が行われる最初の数ヶ月の間は、政策よりも候補者のパーソナリティが話題となるだろう。だが、予備選挙を経て各党の候補者が一本化されてしまえば、政策論議が活発になるだろう。イラク問題が、もっとも感情的な論点となる。しかし、最大のトピックは、医療保障問題になる可能性が高い(もちろん例外は2つあり、もし大規模なテロが発生すれば安全保障問題が最大の焦点となりおそらく共和党が勝利するだろうし、もし深刻な景気後退が生じれば民主党が有利になるだろう)。ヘルスケア問題において、アメリカの有権者は真の選択を迫られる。彼らは、政府の大量のお金(1000億ドル~2000億ドル)が、およそ5000万人の人々――医療保険をかけておらず、低所得者層向けの医療扶助制度(Medecaid)からも漏れており、結果として重病に怯えながら暮らしている人々――のために使われることへの心の準備はできているのかどうかを尋ねられるのだ。そしてその5000万人の外側には、失業して医療保険を失ってしまう――そうすれば彼らも同様なリスクに晒される――ことを怖れているたくさんの人々が控えている。

 華やかな論点ではないけれど、幅広い医療保障制度が欠如していることが、人々の経済的な不安感の主因となっており、その不安感がおそらく大統領選挙を大きく方向付けることになろう。

A grand bargain(アメリカとイラン)

 イランが核兵器に必要なウラン精製の技術をマスターする日は近い。多くのアナリストは核兵器製造には2010年までかかるというものの、おそらくイランは2008年にウラン精製の技術を手に入れ、技術的にもう後戻りできない場所まで来るだろう。ブッシュはイランを(アメリカの)イラクでの災難の主犯者だと見ているし、イランの核開発施設への爆撃を命じる時間的余地はわずかになっている。

 アメリカとイランの両国は、自らの弱みを見せることを極度に怖れているので、どちらか一方から[関係改善に向けて]自発的に方向転換することは難しい。イランの指導者は体制維持を最大の目標としている。経済的には失敗してきたので、国民の彼に対する支持は弱まってしまった。しかし、核問題に関してアメリカに反抗的な態度を取る政策は、国民のあいだで人気が高く、アフマディネジャド大統領は核問題を国民のプライドを賭けたものにしようと試みてきた。他方、アメリカのブッシュ政権は、イラクや石油資源が豊富なペルシャ湾だけでなく、中東全体に対する支配権を賭けてイランと争っているのだと感じている。

 しかし、両国がメンツを保ったまま取引できるとするならば、どうだろう。少なくともアメリカとイランは戦略的な利益を3つ共有している。1.両国はシーア派の現政権がイラクを支配することを支持している。2.両国はタリバンがふたたびアフガニスタンを支配するのを嫌がっている。3.両国は、湾岸地域の石油が世界のマーケットに自由に流れてくれなければ、死活的に困ってしまう。

 もしアメリカとイランが交渉のテーブルにつけば、ただちに二つの困難な問題があらわれる。イランの核兵器への野心と、イスラエル問題だ。しかし、これらの問題も乗り越えられるかもしれない。イランはつねづね核技術が欲しいと公言してきたが、核兵器が欲しいとは言っていないので、交渉の余地は残されている。イスラエルに関しても、イランの大統領はシオニスト主義を公然と非難しているけれども、実際の行動は何ら起こしていないのだ。ペルシャ版の「ニクソン訪中」が実現し、偉大なる取引(grand bargain)が成立しないとは言い切れない。

The culture wars go global(世界の宗教)

 過去半世紀、アメリカの政治で生じた最も顕著な変化のひとつとして、価値に基づく投票者(”values voter”)の出現をあげることができる。宗教的な保守主義者たちは、文化戦争をアメリカの政治の一部分に仕立て上げてきた。白人のアメリカ人に「民主党を支持するか共和党を支持するか」を訊きたいならば、彼らの所得より、教会にどれくらいの頻度で訪れているかを尋ねた方が簡単だ。現に、2004年の選挙の時、ブッシュの支持者の半数以上は白人の福音主義者たちだった。

 2008年、文化戦争の重要性は、それまでに比べて落ちるだろう。福音主義者たちでさえ、共和党の無能さと低俗さにはうんざりしている。そして共和党の候補者たちも、宗教的右派にとっては問題の多い政策を示している(John McCainは不敬だし、Rudy Giulianiは中絶の権利を支持しているし、Mitt Romneyはモルモン教徒だ)。他方、民主党の候補者たちも、文化戦争的な側面に触れないようにしようとしてきた(たとえば”性と生殖に関する権利”については多くを語ろうとしない)。2008年の大統領選挙では、これまでの選挙と異なり、おそらく”神は遍在しない”のだろう。

 しかし、アメリカの政治を長年支配してきた文化戦争は、徐々にグローバル化しつつある(アメリカの国外に飛び火している)。多くの国の政治体制がアメリカのモデルに倣っていることが[文化戦争のグローバル化の]ひとつの原因だ。主要な経済的議論は沈静化してしまったので、政治は、[他の政党との差別化を図るため]文化的な事柄――たとえば社会における家族の重要性など――にフォーカスしはじめたのだ。カトリック教会や、アメリカから輸入された福音主義者たちが、再び勢いを取り戻している。宗教的な信仰が特に西欧諸国の外側で伸び続けている。宗教的な信仰は、受け継ぐものではなく、自らが選択するものになりつつある。そして一度選択してしまえば、公共的な世界で、いさかいごとを起こす確率が高くなるだろう。

 グローバルな文化戦争で顕在化する問題の多くは見慣れたものだ。たとえば中絶の権利、同性愛結婚などのように。でも、3つの新たな争点が世界規模で生じうるだろう。第1に、国連に関するもの――国連は不信心なので、長い間アメリカの保守派にとっての敵だった。第2に、クローン技術に関するもの――これは中絶反対主義者たちと、「科学が神の領域に踏み込んでいる」ことに違和感を抱いている人たちを結びつけるだろう。第3に、環境問題――「神の創造物を守れ」という主張を彼らは好むし、人間が神の支配力を行使しているという観念は、最大規模の文化戦争を引き起こすことだろう。

China’s great game(中国と北京オリンピック)

 北京オリンピックは中国の急速な近代化を世界に示す大きなチャンスだ。しかし、中国政府が対処しなくてはならないのは、なんといっても国内的な問題だ――長期間のめざましい経済成長がもたらした苦痛を伴う変化にどう対処し、経済成長から取り残された者たちのフラストレーションにどう向き合うのか。北京オリンピックは、中国共産党がいかに国の権威を復活させたのかを自国民に示すまたとない機会になるだろう。

 北京オリンピックは、中国の経済的に成功した変化よりも、政治の野蛮さと沈黙を強いられた人々への暴力にスポットライトを当てるイベントになるかもしれない。国内で不満を抱えている人たちは、世界に向けて抑圧の存在を暴露しようと試みるだろうけれども、政府は全力でそれを阻止しようとするだろう。

 北京オリンピックは、中国政府が断固として「内政問題だ」と主張するけれども世界は外交問題だと見なしているトピックに、インパクトを与えるだろう。チベット問題に関して、中国政府はダライ・ラマの代理人と散発的な交渉を続けるだろうけど、それは世界のご機嫌を取るためであって、真に問題解決を望んでいるわけではない(ダライ・ラマの死を待つのが得策だと政府は考えているようだ)。

 北京オリンピックの前には、政府は過激な手段を取ることを嫌がるので、台湾人とチベット人との「交渉の窓口」が開かれるはずだ。2008年、台湾では総選挙が行われるが、いつもどおり、中国との関係が最大の争点になろう。台湾政府は、「中華民国」ではなく「台湾」という名前で国連加盟を申請するかどうかについて国民投票を行う予定だが、中国政府はこの動きを台湾独立の公式的な宣言に向けての一歩だと見なし、激怒するだろう。中国政府は間接的な圧力をかけるだろう――とくにアメリカ政府を通じて。そしてこれはおそらく成功する。アメリカ政府は、中国とアメリカの関係が危機に陥らないよう、全力で台湾を説得するはずだ。

 しかし、それでも、台湾海峡の危機が18ヶ月以内に訪れると予測することは道理に適っている。台湾の挑発行為ではなく、北京オリンピックそれ自体がおそらく原因となる。1997年の香港返還のように、北京オリンピックは、中国共産党の正当性――共産党は中国を豊かにし、中国をふたたび偉大なる大国に育て上げた――を称揚する非常に象徴的なイベントになる。おそらく、北京オリンピックによって愛国心がわっと盛り上がるだろう。中国政府は、国民の愛国心の急騰をいかにコントロールすればよいのか苦慮するだろう。そして最後に残された愛国的な課題――台湾との「統一」――を継続的に試みているけれどもなぜ失敗し続けているのか、説明に困ってしまうだろう。

Twin track(世界経済)

 長年のあいだ、アメリカ経済が世界経済のエンジンになってきた。だが、住宅市場が病んでしまい、また[サブプライム問題を端緒として]クレジット市場がタイトになってしまったので、アメリカの景気後退が生じる確率は上昇したといえる。とはいえ、FEDが金利を抑制できるかぎり、アメリカの景気後退は不可避なものではない。一番ありそうなのは、アメリカの景気は減速するものの、成長自体は維持するというシナリオだ。もちろん全員が経済成長の恩恵にあずかれるわけではなく、住宅、建設、金融セクターはダメだろう。

 2008年は近年になくリスクが高い1年となり、経済成長の二極分化が明確になるだろう。発展途上国は約7.6%の経済成長を実現するのに対し、先進国は1.8%程度の成長にとどまるだろう([先進国向けの輸出が減っても自国内の内需でカバーできる])。アメリカの時代が終わり、2008年はエマージング市場の年になる。

The rediscovery of discretion(SNSについて)

 2007年には、Facebookのおかげで、若年層(Y世代)だけではなく中年層(X世代)がソーシャルネットワークに流れ込んでくると期待されていた。しかし、SNSの世界にはルールブックが存在しないので、Y世代が(2006年の行き過ぎを経て)ネットでの自己露出により慎重になる一方、多くのX世代はあらたな居心地の悪さに身もだえしはじめた。(たとえば上司からの「お友達申請」をどうやって拒否すれば良いのか?拒否することは許されるのか?)

 2008年には、ソーシャルネットワーキングの技術が、人間の本性(human nature)に寄り添うようになるだろう――技術に適合するような人間の本性を強制するのではなく。2007年のSNSは本当に古くさかった。一般的なテンプレートが存在していて、社会的な側面――たとえばどのような情報をプロフィールに書くべきか――をプログラマーがあらかじめ決定していたからだ。もちろん、スタートページをユーザーが多少カスタマイズすることはできた。でも、そんなのは、90年代初頭のAOLやCompuServeもすでに実現していたことだ[訳注:「パソコン通信」のようなもの]。

 かつて、AOLやCompuServeなどの閉じたサービスはボロボロに崩れ去り、Netscapeというブラウザーが開発され、開かれた多元的なインターネットの時代になった。同様なことが、2008年、SNSの世界でも生じるだろう。開かれたツールキットを用いて、誰でも、たった数クリックをするだけで、彼や彼女独自のSNSを作ることができるようになるだろう。それはおそらく、リアルな世界での人間関係を拡張したものとなる。

 ひとつの例はNingというサービスだ(Ningの創業者はかつてNetscapeを立ち上げたMarc Andreessen)。たとえば、Ningのツールを使えば、ある母親は、他の母親を独自のSNSに招待して、子供の遊びのために打ち合わせをすることができる――でもネットの世界を彷徨うストーカーからはプライバシーを守ることが出来る。もし彼女がヨガも好きならば、彼女はちがうSNSを立ち上げることができる。

 ネットワークをどのように使うのかはユーザーに委ねられている点が大きなポイントだ。人々は新たなネットワークに参加(join)するのではなく、彼らが持っている既存の人間関係のネットワークにログオンするようになるのだろう。

Clean the planet(地球温暖化問題について)

 2007年、世界はようやく地球温暖化という問題を認識した。次に求められているのは、解決策だ。地球温暖化に打ち勝つために2つの重要な課題が存在するが、2008年に、それらは解決されそうにない。

 重要な課題は第1に、アメリカが連邦レベルで法的規制を行うことだ。これは大統領選挙が終わるまで実現されそうにない。第2に、国際的な新たな合意の枠組みが必要だということだ。たとえばヨーロッパが排出権取引制度を導入したように、京都議定書には一定の意義があったけれども、それは大事な目的――世界最大の汚染国を引き入れること――を実現できなかった。もしアメリカと中国を枠組みに引き入れたいならば、あらたな合意書が必要だが、2008年にこれも達成されそうにない。

 しかし、2008年は地球温暖化問題にとって2つの点で重要な年となる。第1に、アメリカに、温暖化問題を積極的に扱う大統領が誕生する必要がある。第2に、中国(や他の主要な発展途上国)やアメリカが新たな合意枠組みに加わりたくなるよう、世界は彼らを誘惑する必要がある。それまで決して国家主席が温暖化問題に言及することがなかった中国は、2007年に、はじめて数値的目標を発表した。2010年までにエネルギー効率を20%上昇させ、2020年までに再生可能なエネルギーの使用を倍増させると約束した。しかし、中国が排出量規制を受け入れるまでには、まだまだ長い道のりが残されている。

 先進諸国は中国がその方向へ進むよう援助する必要がある。発展途上国がクリーンエネルギーを使用するコストをいかに埋め合わせることができるのか、先進国は解決策を見つけ出さなければならない――たとえば、クリーンな技術の採用を助成したり、環境技術の譲渡を支援したりするファンドを作るなどして。そして貧しい国々は排出量規制を受け入れるなんらかの道を見出す必要がある。ひとつの方法は、no-loss targetを用いたものだ(目標を達成すれば報奨を貰うことができるが、目標を達成できなくても罰は受けない仕組み)。もうひとつの方法は、セクター別のターゲットを設定することだ(経済全体ではなく、たとえば鉄鋼業セクターでの排出量規制を受け入れる仕組み)。

 2008年、温暖化問題に関して、さえない話が続くだろう。ニュースのヘッドラインにもならないだろう。しかし、各国の担当者や政治家がなんらかの合意を打ち出すことができるならば、2008年は温暖化問題にとって良い年になるといえよう。


1 Star2 Stars3 Stars4 Stars5 Stars (2 votes, average: 5.00 out of 5)
Loading...Loading...
4,317 views | add to hatena hatena.comment 4 users add to del.icio.us 0 user add to livedoor.clip 0 user |  http://plaisir.genxx.com/wp-trackback.php?p=157



Amazon Related Search

Leave a Reply