10月 01

beaux
Ricoh GX100 / Azabu Jyuban / Tokyo.

 「ナンパ」について、「クラブ初心者ガイド」というエントリーで軽く触れた。たとえば以前「可能性に満ちたセックスを構想する」という記事を書いたように、誤解されるリスクを背負いながら、露悪的に、一見低俗だと思われている事柄について語るのがこのBlogの信条なので、今回は「ナンパ」について突っ込んで考えてみたい。「ナンパ」という行為を4つの欲望因数に分解した上で、「ナンパ」=「ただセックスしたいだけ」じゃない場合もあり得ることを示したいと思う。

 まず、「ナンパ」とは見知らぬ異性に声掛けする行為である、とラフに定義しておく。自分は「ナンパ」という言葉が嫌いだ。見知らぬ異性に声をかける行為を「ナンパ」と呼んでしまったとたん、その行為が、軽薄・チャラいという文脈に引き込まれてしまい、あまり望ましくない・公にするべきじゃない・忌むべき・まともな知性を持った大人ならばするべきではない、という倫理的な要請(社会通念)が入り込んできてしまうように思うから。セックスのことを「H」と呼ぶのが大嫌いだと以前書いたけれども、同じく、見知らぬ異性に声がけする行為を「ナンパ」と呼ぶのが好きではないのだ。

 見知らぬ異性に声をかける行為。この行為をあえて「ナンパ」と呼ぶ必要はない。でも、適当な造語が思い浮かばないので、このままカギカッコ付きの「ナンパ」という単語を用いることにする。

■「ナンパ」の4因数

 たとえば、宇宙飛行士・毛利衛さんが東大の900番教室で行った講演会に、一人でふらっと立ち寄ったとしよう。彼は感動的にもこのような話をしてくれた。いわく、「現在、宇宙というフロンティアを開拓しているのは、工学的・理系的な学問や技術の数々です。でも今後は、文系的・人文学的な学問が、宇宙という未開の領域に真剣に向き合う日が来るでしょう。宇宙を道具として扱うのではなく、宇宙の内部で思索と論理を膨らませる可能性、そしてそのような日が来ることに、わたしは胸を踊らせているのです」と。感銘を受けた自分は、来たる日の妄想を膨らませ、隣に座っていた見知らぬ誰かと、毛利さんの発言について語り合いたくなったとしよう。右隣に腰掛けていたのが若い女の子、左隣に座っていたのが若い男の子だったとしよう。右隣の女の子に思わず自分はこう言う、「凄く面白い話でしたね。彼の話をどう思いましたか?」と。それなりに盛り上がる小話をしばし交わしたのち、「せっかくだから夕食を食べながらもう少し語りませんか?」、と彼女にボールを投げてみたとしよう。

 上の例はすべて懐かしい実話です。さて、これは、忌むべき「ナンパ」ですか?

 食事の悦びは他人とシェアすると2倍になる、なーんてことが、料理論の文脈で良く言われている。そう、フレンチのフルコースを一人で食べるのは辛いので、「おごるから一緒に食べに行こうよ」的な募集書き込みが、2ch突発OFF板でしばしば行われていたりする。たしかに、喜びや興奮は、誰かと共有した方が絶対に幸せだ。これは間違いない。だから、自分は、見知らぬ誰かによく声をかける。
「ナンパ」の因数その1:<誰かと感動や興奮をシェアしたいという欲望>

 会場を出てから友人にその悦びを電話で伝えればいいじゃん!と思うかもしれない。だけれども、せっかくならば、同じ趣味・場所・時間を共有した、全く見知らぬ、それまで触れたこともない価値観を持っているかもしれない他者と、人生を接続してみたい。学校、職場、その他なんでもよいのだけれども、自分の主戦場となっている場所で出会う人間は、だいたい似たような人生経験を積んでいる(階級論を持ち出しても良いかもしれない)。自分が普通に生きていれば知り合うことのなかった、つまり普段の知人ネットワークから外れた他人と知り合うことは、滅多にないし、もしそれが可能ならば、とてもありがたく素敵だと思う。講演会はまだしも、前回の記事で扱ったクラブでは、多様なバックグラウンドを持った人間が集まってくるので、この特徴が顕著に出る。
「ナンパ」の因数その2:<同じ趣味・場所・時間を共有した、まったく見知らぬ人生を積んできた誰かに、自分の人生を接続してみたいという欲望>

 もし講演会の直後に予定が入っていて慌てていたならば、彼女に声はかけなかっただろう。つまり、ある程度時間を持て余していなければ「ナンパ」は行われない。暇な時間がある、ということは「ナンパ」の前提条件だ。
「ナンパ」の因数その3:<持て余した時間(暇)を解消したいという欲望>

 さて。もし自分が左隣の男の子に声を掛けていたならば、あるいは右隣の女性が若い女の子ではなく初老の女性だったならば、決して「ナンパ」とは呼ばれないはず。あるいは、右隣の若い女の子のルックスが比較的可愛かったならばより「ナンパ」っぽいし、比較的可愛くなかったならば「ナンパ」だとは思われないかもしれない(失礼)。とするならば、
「ナンパ」の因数その4:<自分が性的対象だと感じる相手に声を掛け、仲良くなりたい、あわよくば性的関係を結びたいという欲望>

■4因数の組み合わせが、いろいろなスタイルの「ナンパ」を生む

 上記の4つの欲望が「ナンパ」の因数であると思う。他の人にもこれが当てはまるのか、自分の場合だけなのかは、わからないけれども。因数3(暇な時間を解消したいという欲望)はどの「ナンパ」にも含まれている。時間を持て余しているからといって、かならずしも「ナンパ」することにはならないが、この因数は前提条件として確認しておきたい。

 さて。もちろん、自分の「ナンパ」は綺麗なナンパ、と潔白ぶるつもりは毛頭ない。少々おおげさに書いたが、「ナンパ」の十分条件は、まちがいなく因数4だ。つまりあらゆる「ナンパ」に決定的なのは性的欲望だ(先述したように、年頃の異性に声をかけなければ、「ナンパ」とは呼ばれないのだから)。

 大多数の「ナンパ」は、ただセックスしたいという欲望(因数4)にのみ基づいて行われている。路上で声を掛ける、ストリートナンパ(通称ストナン)の9割は、この欲望だけをベースに行われている。「やらせろよ」「お持ち帰り」「TMG」的に。サクラがいるような、ネットの「出会い系」の場合、性的欲望だけに基づく場合が7~8割くらいを占めるのだろうか?mixiみたいなソーシャルネットワークだと、「同じ趣味を持っている異性と仲良くなりたい」「偶然同じ街に住んでいる異性と知り合いたい」といった具合に、因数1(感動のシェア)や因数2(ネットワークを拡げる)も比較的入り込んでくるのだと思う。

■結び

 ここで、前回の記事で紹介した2chクラブ板のコピペをふたたび貼ってみよう。

せっかく同じ空間で好きな音楽聞いてるもの通しが集まるんだから 。
コミニュケーション取るのは必然だろ 。
そういうのもクラブの魅力だと思うし 。
そこから恋愛に発展するもの当然ありだしナンパだとは思わないな俺は 。

同じ趣味の男女集まれる環境なんて他ないよ。
最高の音と、共感できる人達。まして異性同士なら話しかけて当然。
コミニュケーションとらないなんてもったいない。
ウザイなんてつまらないこと言うなよ。

 ここでは、因数4(性的欲望)をベースとしながらも、それにとどまらず、因数1(感動のシェア)、因数2(趣味を共有したネットワークを拡げる)が強調されていることがわかる。そして、この考え方に、自分も深く共感する。

 自分の場合、因数4(性的欲望)のみにもとづいた「ナンパ」をすることは滅多にない。ただセックスしたいという理由だけで「ナンパ」をすることが悪だとは思わないけれども、それだけでは、つまらなく、寂しいから。セックスはあまりに単純な行為(毎回やる作業は似たようなもの)なので、物語を膨らませることができなければ、それほど楽しくはない。歳を取ったのからそう思うのかもしれない。シンプルに言えば、いいなと思った子と、喜びを分かち合いたいんだよ。同じ趣味を持っている子と、仲良くなりたいんだよ。まずはその気持ちがとても大きい。その延長線上で、恋に落ちたら素敵なことだし、もしそうはならなくても、それなりに幸せだ。

 繰り返すけど、セックスを構成する行為はあまりに単純だ。お決まりのラブホテルへ行って、脱がせて、脱いで、抱きしめて、腕枕をして。だから、セックスへと至る道筋を噛みしめる(物語を膨らませる)ことのほうが何百倍も面白い。物語を膨らませるには、相手のことを知らなくちゃいけない。相手といろんな感動をシェアしなくちゃいけない。相手といろいろ語り合わなくちゃいけない。それまでまったく知らなかった相手は、知るべきフロンティアに満ちていて、ときには自分の価値観すら変えてくれる。そういえば、性的欲望は置き換えという過程を通じて満たされると、フロイトも喝破していた。たとえ結果的にセックスへと至らなくても、それはそれでいい。

 因数4(性的欲望)のみに基づく「ナンパ」(セックスしたいだけの「ナンパ」)は、「ナンパ」の対象を、固有の(交換不可能な)人間だとは見ていない。可愛ければ、誰でも良いってことになる(繰り返すけど、それが悪いというつもりはない)。でも、因数1(感動を共有したいという欲望)や因数2(知りたいという欲望)が入り込んでくると、「ナンパ」の対象を、交換可能な存在だとは思えなくなる。偶然出会った誰か、感動を共有したいと願う誰かと、物語を分かち合いたいし、セックスがあろうがなかろうが、「その人」を知りたいと思ってしまう。それが束の間のものなのか、持続するものなのかは、わからないけれども。上のコピペは、自分のその気持ちを、シンプルに示してくれていると思う。

 そして、そんな気持ちで誰かに声を掛けるときは、不思議と相手が自分に心を開いてくれることが多い。これは本当に不思議だな、と思う。「ナンパ術」的なマニュアルがちまたには溢れかえっているけれど、セックスや「お持ち帰り」を意識しすぎるから、相手に拒絶されるし、言葉が続かなくなるんだよ。端的に言って、「ナンパ」のコツは、ある空間と興奮を共有できる自分の幸せを、いかに相手に伝えられるかにあると思う。

 ナンパという言葉にいったんカギカッコをつけて、コミュニケーションというシンプルな言葉に回帰してみてはどうだろう。旅行の想い出の大部分を占めるのが、旅先での人々との触れ合いであることは多い。人間は、コミュニケーションの欲望に駆り立てられながら、生を刻む動物だ。「ナンパ」はそんなに恥ずかしいものだろうか?そんなに軽薄なものだろうか?そんなに秘匿されるべきものだろうか?ゆるやかな性的欲望を様々な喜びに置き換えながら、異性とのコミュニケーションを希求する、上に書いたような自分の行為が、「ナンパ」と呼ばれ、蔑まれるならば、「ナンパしてます!」と、誇りを持って宣言しようと思う。ちょっぴり苦笑いしながら。


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6 Responses to “「ナンパ」の因数分解”

  1. がんちゃん Says:

    クラブなどでナンパする際は、同じ趣味・場所・時間を共有した分接点があり絡みやすい。だけどストナンは、全く接点のない赤の他人に話しかける、つまり一から相手との関係を築いていかなきゃいけない。それがストナンの難しいところですよね。確かに度胸をつける+コミュニケーションスキルを高めるいい練習にはなるんすけどねwでもスルーされた時の精神的ダメージを考えると、ストナンはしらふではやる気にならないっすねw

  2. Gen Says:

    がんちゃん、コメントありがとう。

    逆に自分はストナンできなくなりましたね。してもつまらないというか、毎回お決まりなので萎えてしまうというか、物語が拡がらないから、その先に見えるものがないというか。セックスは物語に護られていないと虚しいものだと根本的に自分は思っています。

    オナニーで射精した後の虚しさは、古今東西の若者のテーマみたいですが、ストナン的なナンパ(性欲だけのナンパ)では、それが先鋭的に滲み出てくるというか。色々とあるけれども、幕張メッセの某の時も、「空間の感動を共有できた」という感覚が薄かったから、つまり性的欲望にもとづいて声をかけるしかなかったから、気が乗らなかったですね。プライベートな話ですがw

  3. 但木リトツイート Says:

    はじめまして、Gen殿。「空間の感動の共有」まさしく我が意を得たり、です。

    当方の初期の自己正当化的目的は、まことに恥ずかしい後ろめたいものでした。

    クラブのナンパ術を磨いて、「素人主義でタダマン安上がり」「ワンチャンあるで」「TMG」「金を稼ぐ営業力アップ」のためだけが、渋谷の大箱のナンパだと思ってました。
    ですが実際にナンパノルマ達成し、恥をかき、相手の都合を察し、福音的キリスト教信仰からの内面倫理の良心の呵責、親のすねかじりという罪悪感から、—それを誤魔化すヤク乱用的栄養ドリンク・蒸留酒ぶち込みで–もんもんとしていましたが、ここのGenさんのブログをみて、すべての謎がとけました。

    神ブログ、素晴らしい、Excellent、フロイト心理学的・シニカル社会学的に秀逸な論文に準ずる、ハーバードやシカゴの査読付き英論文にpublishしても20件はtenure大学教授に引用されるレベルです。宮台真司とか恋愛学先生か北大帯広畜産・性格心理学・大衆心理学ワイナベあたりに。

    既に京大理論物理の博士院生に伝わっていて、
    今度道草の津西さんと、イリノイUIUCの瀧岡くんと、島本秋sankakutyuさんにも教えよう。あ、もう知ってるかw

    Good luck. All acadimician surely Celebrate your’s blog thinking.

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