7月 19

direct communication#2
Ricoh GX100 / Azabu / Tokyo.

 むかし講談社のエントリーシートを書いていたときのこと。おぼろげな記憶だけれども、たしかこんな設問があった。「あなたが人生で一番笑った瞬間はどんなときでしたか?わたしたちにも面白さが伝わるように、その経験を教えてください(800字)」。わたしたちにも面白さが伝わるように…伝わるよう…伝わ…わらわらわらわら…あれこれ頭を絞ったけれどちっとも出てきやしない。Google先生に必死でお伺いを立ててみたけれど、どの話もそんなに面白いとは思えない。そして悶絶したまま朝を迎えた。やばいな俺。人様に語ることができる笑いの経験すらないのか…。いや、それはちがう。そのとき心底こう思ったのだ。大爆笑はそれなりにしてきたけれど、状況だけを取り出してそれ自体がすごく面白いと言えるような出来事は経験していないのだな、と。誰かと一緒にいるから笑えるのだ。一緒にいるから、些細な出来事でも、笑いが笑いを呼び、結果的に大爆笑してしまうのだ。紙に書いて、その状況を共有していない他者に伝えようとすれば、あまりにつまらなくなってしまう。たとえば、「健太がスーツを着て馬のかぶりものを付けて渋谷の路上を歩いていた…そのうしろを20人で尾行した…みんながありったけ笑いだした…つられて自分も腹筋が壊れるほど笑った…」。はい、ほんとうに、つまらない。でも、もしあなたがその状況にいたならば、おそらく大爆笑していたはずだ。

 このmuxtapeの一番上の曲名をクリック・再生してみてほしい。そしてかならず、大音量で感じてほしい。笑い声を全身で浴びてほしい。それだけで、笑えてこないかい?笑い声を聴くだけで、なぜ笑えてくるのだろう?

 笑い、ってなんだろう。人はなぜ笑うのか。今日は、笑いについての疑問を、暴けるだけ暴いてみよう。笑い研究の分野では、哲学者アンリ・ベルクソンのその名もずばり『笑い』という書籍が有名だけれども、今はもう2008年(早いね!)。どうせなら科学の力を借りよう。スティーブン・ピンカー著『心の仕組み 下巻』を利用する?いや、ピンカーさんを参照するのは、どことなく安易な感じがする。これは本職の研究者の論文を読むしかないでしょう。というわけで、笑いに関する最新のreview論文を探してみた。あった。Gervais, M. and D. S. Wilson (2005). “THE EVOLUTION AND FUNCTIONS OF LAUGHTER AND HUMOR: A SYNTHETIC APPROACH.” Quarterly Review of Biology 80(4): 395-430.link to PubMed)。どうやら進化生物学の論文のようだ。今日はなるべく簡潔にいこう。

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7月 03

fusion
Ricoh GX100/ Roppongi / Tokyo.

 『まぐれ』という今春にヒットした一冊の書評。すでに読まれた方も多いと思うので、内容紹介はできるだけ簡素にとどめ、この本の主張をどう受け止めれば良いのか?という自説を中心に書きます。この本を読んで「人間ってダメだな」と思う必要はかならずしもない、という主張を。元ディーラー、現在は不確実性を研究する大学教授である著者が綴った本書の副題は、「投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」。もちろん自分も投資関係の本として読み始めたわけですが、途中から「これは投資についでの本ではないぞ」と気づくことになった(だからあえて”Investment”タグはつけない)。本書は一級の人生論(人生を啓蒙するサイエンスエッセイ)として読むのが正しい。「投資」というテーマは、著者が議論を展開する上でのあくまでケース(事例)にすぎない(だから純投資的な興味から読むと歯がゆい思いをするはず)。とにかく、極めて密度が濃いので、投資に興味のない人でも十分楽しんで読むことができると思う。というか、この手のハナシに馴染んでいない人は、必読。『ヤバい経済学』なんかよりも圧倒的に面白い。

 本書の中身をごく簡単に要約しよう。1.人間は、たまたま生じた出来事(ノイズ=まぐれ)に対し、過剰に意味(シグナル)を見出してしまう認知のクセを持っている。2.つまり人間は、世の中で生じる出来事の因果関係を、自分たちが思っている以上に誤って把握している(「運を実力と勘違いする」)。だが、そのことに気づかない。3.なぜなら人間は、多くの場合、論理的思考モードではなく感情的思考モードによって日々の意志決定をこなしているから。また、意識的に論理モードを駆動させようとしても、無意識的な感情モードの割り込みを抑え込むことは難しいから(参照:「論理的思考は異常な状態」「思考の二重処理仮説」)。

 もちろん、こう要約してしまえば、「ありきたりな行動経済学の本か」「ありきたりな認知心理学の本か」となってしまうわけだけれども、この本の特筆すべき点は、人間の論理的思考モードが感情的思考モードに犯される様子を、感情的思考モードに訴えかける鮮やかな「物語」として綴っているところ。つまり、平板な教科書的記述が(人間に弱い影響力しか与えない)論理的思考モードに訴えかけるものであるのに対して、この本は(人間に強い影響力を与える)感情的思考モードをターゲットとして<論理/感情>の齟齬のお話を展開しているのです。この点がとても素晴らしい。さて、以下にもう少し細かく本書の内容を紹介したうえで、自説の展開に入っていこう。

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